現場DXが進まない本当の理由 ― 成長中の医療・介護現場に立ちはだかる3つの壁|ジョシュコラムVol.1

「また紙の書類?」「この情報、別のファイルに入ってなかったっけ?」――そんな場面、現場でよくありますよね。
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉は聞くけれど、実際の医療・介護の現場ではまだまだ紙と電話が主役。
どうして現場DXは進みにくいのか。成長中の医療・介護の現場でよくぶつかる“3つの壁”を、やわらかくひもといていきます。
職員数が限られた現場にある「3つの壁」の背景

まずはシステム導入の壁。導入費用や運用コスト、研修の時間確保、ITが得意でないスタッフへの配慮など、一歩目からハードルが高くなりがちです。
次にデータの点在。記録は電子カルテ、連絡はチャットや電話、共有ファイルはクラウド――とツールがあちこちに分かれていて、必要な情報を探すのに時間がかかってしまうのです。結果として、全体像をつかみにくく、利活用もしづらいのが現実です。
そして現場の慣習。紙や電話は長年の“確実に伝わる”手段として続いてきました。失敗した経験が少ない分、安心感が強く、急激な変更には慎重になりやすいのです。
紙と電話が選ばれ続ける「安心」と「確実」
紙の記録は目で見て確認でき、停電や機器トラブルでも読めるという安心感があります。書きながら考えを整理できるのも大きなメリット。
電話は声のトーンや間合いでニュアンスを汲み取りやすく、緊急時の即応性も高い。ITスキルに差がある職場でも、誰でもすぐ使える“普遍性”が支持される理由です。
また、個人情報の扱いに敏感な現場では、「知らない仕組みより、慣れた方法のほうが安全そう」と感じられやすい土壌もあります。
デジタル活用とのバランス:全部置き換えない設計

電子記録やクラウド、チャット型の連絡ツールは、検索性・共有性・集計のしやすさで圧倒的に有利です。
ただし、導入直後の学習コスト、機器トラブル時の業務停止リスク、“声で伝える”微妙なニュアンスの難しさなど、現場特有の懸念も。
だからこそ、使い分けがカギ。たとえば、
・緊急連絡や微妙な相談は電話/記録として残す要件はチャット・記録ツールへ
・一次メモは紙でもOK/確定情報は電子化して検索できる状態に
・部門ごとに小さく導入し、うまくいった手順を横展開――といった“ハイブリッド運用”が現実的です。
まとめ
現場DXが進まないのは、怠慢ではなく「導入の壁」「データの点在」「慣習による安心感」という合理的な背景があるからでした。
いま大切なのは、紙と電話を悪者にすることではなく、“どこならデジタルがいちばん効くか”を一つずつ見つけること。
まずは小さく試す、うまくいった流れを標準化する、そして紙・電話の良さは必要な場面に残す――この積み重ねが、等身大で続けられるDXになります。
無理せず、現場のペースで「ちょっとずつ便利」を増やしていきましょう。
監修者プロフィール
    富田寛生/作業療法士/修士(リハビリテーション科学)
    100BLG株式会社 研究員 
  


